ナムラコクオー物語(4歳編・その2)

弥生賞

 しかし、シンザン記念後の伊藤氏の言葉が悪い方向に的中してしまったのです。
 弥生賞。関西の期待馬ナムラコクオーと、関東の新星エアチャリオット、さらに暴走馬サクラエイコウオー、社台の期待馬(ちなみに、この年は社台の超不作年で、ポラリスのほかにはエアダブリンくらいしかいない)ノーザンポラリス。
 皐月賞直結レースはナリタブライアンへ挑戦状をたたきつける馬の選定レース、という感じで迎えられました。
 そして、これは本来ならナムラコクオーの関東顔見せ圧勝レースになるはずだったのです。前走・前々走の走りっぷりから考えて、負ける要素など見つけるほうが難しいです(いや、フレグモーネとか、速い馬場への対応、という問題はあったんですが)。
 では、まず、レース前の陣営コメントを
森助手
 一ヶ月前フレグモーネで三日間ケイコを休ませた。それは誤算だったが、その後しごく順調にきたし、今週の追いきりも52秒だから不安はないよ。中山に替わるが、ペースが速くなると折り合いもつきやすいから大歓迎。距離もいいし楽しみだね。
(ホースニュース馬)
 まさに自身満々です。また、「4歳重賞を6馬身以上で勝った牡馬は昭和50年以降、次走の距離が1000メートル以上伸びない限り[6−1−0−0](勝ったあと半年以上休んだ馬を除く)という成績」(井崎脩五郎のデーター作戦・ホースニュース馬)という心強いデータもあり、もう盤石(井崎さんの予想があるからこそ不安、という見方もあるかもしれませんが^^;)。
 が…なんとまさかの3着敗退。
 最内枠が災いし、横にいたノーザンポラリス(出遅れの代名詞)と、その横のサクラエイコウオー(気性難の代名詞)がちゃかつく影響をもろにかぶり、ノーザンポラリスともども出遅れ。一方、元凶のサクラエイコウオーはスタートこそあまりよくなかったものの、悠々と先手を取り、外のエアチャリオットから先行権を奪い取り(エアチャリ自身にも先行する気は無かったでしょうが)、そのままマイペースの逃げ。朝日杯を別の意味で盛り上げたあの気性は見せず(小島太騎手はいつ爆発するかびくびくものだったそうですが)、絶好の展開を味方につけて逃げ切り。
 一方のナムラコクオーは出遅れた後、エアチャリオットを見るように外を回りました。が、いつものような伸びは見られず、なんとなんとエアチャリオットに競り負けて3着。出遅れ、コースロスはあったにせよ、まさかまさかの連外し。
上村J
 ゲートで立ち上がる馬がいて、自分も出負けしてしてしまった。道中はいい位置をとったが、右手前で走り続けたことで伸びきれなくなってしまった。
RACE WATCHING
 坂上の叩き合いで出遅れが響き。3着。
(以上、週刊馬)

上村騎手
 サクラエイコウオーがゲートで立ち上がったのにひるみ、出遅れてしまった。道中もずっと手前を替えないで走っていました。そのぶんが最後の伸びに影響した感じです。
伊藤真継氏
 弥生賞は中山まで応援に行きました。残念だったって?いや、逆に意を強くして帰ってきたんですよ。いくつもの不利をこうむりながらも差のない3着。手前も替えずにずっと右手前で走っていたといいますからね。牧場にいた頃も母親に似て、少し臆病な面をのぞかせることがありました。
 母がノーザンダンサー系牝馬なので、どの系統が一番合うのか試行錯誤を繰り返しているところです。ナムラコクオーが走って、この母系にはネイティヴダンサー系が一番合うことになるのかもしれませんが、同じ配合をしたとしても弟妹が走るとは限らない。配合とは難しいものです。

(以上、優駿)

上村騎手
 サクラがゲートの中で立ち上がったのでヒルんでしまった。それでもいいところへつけられたが、前走ほどスムーズな走りではなかった。右手前でばかり走っていた。その分、最後伸びきれなかった。レース間隔が開いていたし、動きも少し重かった。本当はもっと反応のいい馬だからね。
次走へのメモ
 エアを意識しての競馬。位置どりの分長く脚を使っているし、終始外目を回ったにしては際どく詰め寄る。まだ余裕残しの仕上がりだけに変わり身は見込めるが、キャリアを考えると一変までは難しいかも。
(以上、週刊競馬ブック)

上村騎手
 「スタートが悪かったが道中はいい位置につけられた。今日は道中右手前ばかりで走り、追ってからの伸びを欠いた。」
 「好位どりができたけど、右手前ばかり使ってスムーズさに欠けた分、最後伸びきれなかった。追ってからの動きも重くて本来の反応に一息だった。」

(それぞれ競馬報知から)
 本当に、まさか、まさかです。ブライアンがスターマンに、シンボリルドルフがギャロップダイナに負けたとき以上の衝撃が日本中に走りました。
 冗談はさておき、最大最強のライバルが本番前に敗れたことで、ナムラコクオーが敗れたことでナリタブライアンの皐月賞における圧倒的優位は揺るぎ無いものとなりました。
 特に、サクラエイコウオーはさておくとしても、エアチャリオットに競り負けたのは一線級の中での能力の限界を見せた、と捉えられなくもないもので、かなり不安が残ります。

 競馬ブックの「次走へのメモ」が全てをあらわしています。
「一変までは難しいかも」

 つまり、完調ならこのメンバーに負けることはないだろうが(どこにそんなこと書いてあるんだ、っていう突っ込みは当然生じると思いますが、「変わり身は見込める」あたり、ってことでご勘弁ください)、それでもナリタブライアンの2着が精一杯、という感じです。確かに、サクラエイコウオーはくせ馬で、まともに走ったときの力は誰にも分からないものがありますが、それでもそれでも、最大のライバルであるナリタブライアンの強さを考えると、やはり負けは許されないレースでした。
 とはいえ、もともと3歳戦でも似たような競り負けは経験しており、これもさらに強くなるための第一歩、と好意的に捉えられなくもありません。かなり贔屓目で見ないとそう捉えられませんが。また、上村騎手のコメントにもあるように、前走のシンザン記念でようやく手前を変えられるようになったと思ったのに、またも右手前で走り続けた、ということで、「絶対的な能力ではブライアンと差がないかもしれないが、現時点での完成度では差がある」という見方もされました。本番ではちゃんと手前を変えられる保障はどこにもないですし、本番と同じコースでこれだったのだから...というのはごく当然に湧き上がってくる不安ですから、このコメントは的を得てる気もします。ですが、裏を返せばちゃんと走りさえすればなんとかなるということ。ここらへんの解釈はその馬への思い入れで180度変わってしまうものです。
 さらにいえば、「爆発力」という点については、シンザン記念をぶっちぎったあの脚を持つナムラコクオー以外に、ナリタブライアンに対抗できる馬はいないのです。なんだかんだいっても、ナリタブライアンはそれだけの馬ですし、ナムラコクオーはそれだけの馬に立ち向かっていける唯一の馬(当時)だったのです。
 ちなみに、上村騎手はレース後「これで下ろされると思った」とのことですが、野村調教師が続投宣言。「流れに乗り損なったわりには、直線よく伸びて差を詰めている。本番では、もうスタートミスはしません」と巻き返し宣言。
(「」内コメントはNumberより)
 このころは「脚元だけでなく体質も弱く、強い調教を課すと、すぐに下痢をしていたのに、いつのまにか体全体に張りが出て、弱かった後駆にも力がついてきた。実戦トレーニングの効果でしょう。」(野村調教師・「優駿」より)と、状態も上昇。
 そして、ナムラコクオーは、皐月賞へ向かいます。

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