Boxing at Kempton Park Racecourse 〜 Kempton Park競馬場訪問記

 これを書き始めているのは2022年3月27日なんですが、丁度今日、映画「ゴヤの名画と優しい泥棒」を鑑賞しました(filmarks)。
 ご覧になった方は分かると思いますが、この映画にはさらっとKempton Park 競馬場の話題が登場します。Kemptonの話題は、笑いの小ネタとして法廷シーンで登場していたわけですが、そのことから分かることは2つ。Kempton競馬場の存在は映画鑑賞者が知っている知識として作成者に認識されていること、そして、法廷シーンに登場する裁判官・陪審員・バリスタ・傍聴人らが知っている知識であるとして作成者に認識されていることです。Kemptonの存在は、イギリスにおいてそれほどまでに重要かつ有名なのであります。

 さて、その偉大なるKempton Park競馬場(ケンプトン競馬場とするかケンプトンパーク競馬場とするか迷ったんですが、JAIRSに倣って以後ケンプトンパーク競馬場という表現にします)でおこなわれるレースのうち、最も有名かつ重要なレースが、毎年Boxing dayにおこなわれるキングジョージ6世チェイスです。
 キングジョージ6世というと、夏にAscotでおこなわれるキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでも知られている競馬好きおじさんですね。夏は平地、冬は障害と、競馬を楽しみまくっております。

 で。Boxing Dayというのは、言うまでもなくイギリスのBank Holiday、祝日にあたります。
 これはもちろんみんなで楽しくボクシングをして殴り合う日ではなく、Chrismas Boxを使用人等に贈る日、ということのようです。日本のWikipediaが簡潔にまとまっててよいですね。私がイギリスにいたときは特に意識してなかったんですが(そりゃあ競馬場にいるんだからあたりまえ)、shopping holiday的な意味合いもあるようです。この日にWest Quayに行ってたら盛り上がってたのかもしれない。

 そんなBoxing Dayにおこなわれる、競馬ファンの皆様へのクリスマスプレゼントが、このキングジョージチェイスであります。競馬ファンというのは、上流貴族の皆様からしてみたらまさに使用人なのでありますね。

 さて、Boxing Dayですが、shopping holidayとかいいつつNational Railが動いていません。鉄道まわりの人を休ませる日だからなのでしょうか。これ、市内の人は気軽にshoppingに行けるけど、それ以外の人はどうしたらいいんだろうか。
 そんなときに頼りになるのが我らがGoogle Map大先生。大先生の指示によると、Southamptonから一旦Heathrow空港に出て、そこからバスで移動すればいいようです。鉄道まわりの人は休めるのに、バスまわりの人は休めないのですね。大変ありがたいのではあるけれど、どういう差別化なのだろうか。

 で、楽しいクリスマスを終えて、早朝のSouthamptonバスターミナル。やらかしました。バスの出発時刻を勘違いして、1本乗り遅れ。まったく、なにやってんだか……。
 あらためてバスのチケットを買います。学割で20ポンド強。約4000円です。そしてのんびりとHeathrowへ。バスは時間によって到着ターミナルが異なりますが、とりあえずどのターミナルに到着してもKemptonにはたどり着けそうです。道はすいていましたが、到着はほぼ定刻通りでした。
 そして、安心してトイレに行ってたら路線バスを一本逃しました。路線バス、定刻より早く出てるように思えるのは気のせいでしょうか。
 で、途中で路線バスを乗り継ぎます。こんなルート、Google Map大先生がいなかったら絶対に見つけられていません。文明の利器万歳。いやほんと、大昔の日本人はどうやってKemptonのキングジョージを見に行ってたのよ。
 ちなみに、この路線バス乗換時、バス停待ちしていた少年が親御さんに向かって、バスの番号を叫んでいました。私はその声を信じた結果……子供が「135」と叫んだバスが、実は「235」、つまり私が乗るべきバスだったことに気付かず、バスに乗り損ねました(イギリスでは手を挙げないとバスは止まってくれません)。予想屋が外れ馬券の数字を連呼してくることはあっても、まさか競馬場に入る前に子供に間違った数字を叫ばれて騙されるとは思わなかった。まったくもう。
 てことで、信じるべきはGoogleと自分の目。無事バスに乗り、到着したのでした。

 ちなみに、この子供に騙されたくだり、下手したら「2015年12月26日に起こった出来事の中で一番記憶に残っている場面」だったりします。競馬よりも、こういうどうでもいいところが記憶に残ります。

乗り損ねたバス 現地で買った
バスチケット
Heathrow 当日のメモがないので不確実なのだけれど、
おそらくこんなルートでバスに乗ったはず
バスを降りたらこんな感じで歩いて行きます。案内も出てますが、それっぽい先行馬はすぐに見つかるので、追走すれば簡単です。

 無事、競馬場に到着です。Boxing dayで皆さんヒマなのか、動物愛護団体も待ち構えておりました。

 ここから先は慣れたもので、とりあえずチケットゲット。40ポンド、7500円程度です。泣きそうですね。

スタンドが見えてきた 謎オブジェ 入場券

 では、中に入って安心したところで、あらためてKemptonのキングジョージPark競馬場についておさらい。助けてGoogle先生。なお、これを書いている2022年3月29日時点(書き始めてから既に2日が経過している)で、JAIRSの競馬場案内はありますが、日本語のWikipedia無く、英語(と仏語蘭語)のみです
 最寄り駅はNational RailのKempton Park。電車が動いてさえいれば、バス乗り継ぎのようなややこしいことをしなくても到達できます。ここは外回りが芝、内回りがポリトラック。ここで平地競馬がおこなわれます。
 主要競走はなんといってもBoxing DayにおこなわれるG1競走3連発。ロンドン近郊で障害の大レースを見られる、非常に重要な競馬場であります。



● Kempton Park閉鎖騒動

 このKempton Park競馬場に激震が走ったのは2017年冒頭。ここを管理するJockey Clubが、Kempton Parkを早ければ2021年までに閉鎖して住宅地とする、というニュースが流れました。
 とりあえず、こういうときはRacingPostとBBC。
 Kempton Park racecourse faces closure to make way for 3,000 homes(BBC。2017年1月10日)
 Shock plan to close Kempton and open all-weather course in Newmarket(Racing Post。2017年1月11日)
 「2021年まで」という部分について、あれ?と思った方もいるでしょうが、とりあえずそのへんは後述。当初報道では、キングジョージ6世チェイスはサンダウンに移転。そして、なんとびっくり、New Marketにポリトラックコースをつくるというプランでした。もしかしたら、調教のためにポリトラックコースをつくりたいという動きがあったのかもしれない。

 その他、関連する記事を適当に検索してアップしていきます。
 King George switch saddest thing about Kempton closure(Racing Post。2017年1月11日)
 Nicholls: I dread the doors closing for the final time(Racing Post。2017年1月15日)
 The numbers don't add up in Jockey Club's Kempton plan(Racing Post。2017年1月20日)
 McManus speaks out against JCR's Kempton plans(Racing Post。2017年3月19日)
 Here's why Kempton's closure would be a massive loss to punters(Racing Post。2017年12月8日)
 Residents positive on Sandown redevelopment plans but worry about traffic(Racing Post。2017年12月17日)
 Newmarket not the only all-weather option one year on from Kempton axe plan(Racing Post。2018年1月11日)
 Housing review stresses under-threat Kempton's significant role in local tourism(Racing Post。2018年5月16日)

 JAIRSにて日本語に翻訳されているのは以下の2記事。閉鎖について両論の翻訳記事を載せているのが興味深いですね。
 Shutting track best for jumps racing in long term, says chairman(Racing Post。2017年1月13日)
 → JAIRSに掲載された翻訳:競馬界にとってケンプトン競馬場閉場は長期的には有益という見解(イギリス)[開催・運営]
 Opposition grows from trainers to Kempton plan(Racing Post。2017年1月20日)
 → JAIRSに掲載された翻訳:ケンプトン競馬場閉鎖計画へ高まる反対の声(イギリス)[開催・運営]

 ちなみに、みんな大好きRuby Walshは「仕方ない」という趣旨のコメントを残しています。
 → Walsh: Kempton Closure “Makes Sense”
 Rubyのコメントを読む限り、Kemptonの通常開催の売上はかなり大変だったのではないかと思われるところです。

 ただ、2018年のBBCを読むと、風向きは変わってきています。
 Kempton Park: Plans for redevelopment of racecourse now 'unlikely'(BBC。2018年2月23日)
 そして、どうもこの売却話がぽしゃったような報道が出ます。
 Jockey Club setback as council rejects Kempton housing plan(Racing Post。2019年11月6日)
 Kempton saved after Jockey Club scales down housing plans for racecourse site(Racing Post。2020年2月6日。)

 実を言うと、私も2017年に降ってわいたこの閉鎖騒動について忘れていて、確か2021年のキングジョージチェイスの前あたりに、「そういえばどうなったんだっけ」と思い出したのでした。とりあえず、2022年3月時点で、Kempton Park競馬場は開催されています。いったんは売却話はぽしゃったようではありますが、今後どうなるかは私の知るところではありません。ロンドンの住宅事情が悪いことは風の噂では入ってきておりますが、新型コロナウィルスパンデミックやウクライナの戦争を経て、どうなっていくのかは私には分かりません(分かってたら競馬なんてやらずに投資で大儲けしてます)。

● Tylicki騎手の落馬事故

 さて、Kempton Park競馬場といえばもう1つ。こちらにも触れざるを得ません。
 私とTylicki騎手の関係についてはあと10年以内くらいには書くとして(なお、ネットの片隅にすでにちょっとした記事はあがっています)、事故が発生したのは2016年10月31日。Kempton Parkの第3レース。Nellie Deenを含む多重落馬事故が発生し、Nellie Deenに騎乗していたTylicki騎手は負傷、緊急搬送されました。最終的に、Tylicki騎手は下半身不随になってしまうという大事故に。
 Kempton Parkは私にとっては、今回のキングジョージで非常にいい思い出のあった競馬場だったのですが、今回のTylicki騎手の事故で非常にマイナスのイメージがついた競馬場になってしまいました。まあ、時間が経てばなんてことなくなるんだろうけれど。

 この事故自体は、ある意味、99%の日本人にとっては、おそらく毎年どこかで発生している落馬事故の1つに過ぎないと思います。
 ところが。これが話題になったのは2021年秋。「ムーア短期免許取得を断念 裁判出廷のため」という記事がマスコミに載りました。これにより、チャンピオンズCのエアスピネルの騎手が空白となりました(結局、藤岡康太騎手を乗せて11番人気9着)。
 この「裁判」というのが、我らがTylicki騎手の落馬事故に関する裁判だったのです。

 これを書いている2022年3月30日時点で、既にLondon High Courtの判決が出ており、Tylicki騎手が勝訴しております(Queens Benchの判決はこちら)。
 勝訴それ自体はいいのですが、少なくとも裁判で勝てるレベルの事故であったということは、防ぐことができたレベルの事故であったということでもあり、なんというか、非常に残念な気持ちにもなってしまいます。



 さて、難しい話はさておき、競馬場に入りました。

 とりあえず、レープロをゲット。


 G1が3つおこなわれる本日のKempton Parkではありますが、レープロ内に載っている特集はどれもこれもキングジョージ6世チェイスに関するものばかり。Kauto Starの記事も、Kauto Star Novice's Steeplechaseがおこなわれるから、というわけではなく、Kauto Starが死んでから最初のキングジョージ6世チェイスである、という流れの文章になっております。

 South Entranceから中に入ると、まず左手目の前にパドック。そして、その前に立つのが、Desert Orchidの銅像です。皆さんご存じ、キングジョージ6世チェイスを通算4勝した芦毛の名馬。英語版Wikipediaは詳細ですし、もちろん日本語Wikipediaもあります。なぜかスウェーデン語もあります。ルナさんの記事も詳細です。デザートオーキッドの名前を冠したレース(Desert Orchid Chase)はこの翌日、12月27日におこなわれます。この年、2015年の優勝馬はSprinter Sacre、説明不要な名馬ですね。Chepstowが無くなると分かってたらKemptonに残ってこの馬を見られたかと思うと、悲しくなります。
 そして、パドックの真ん中に立っている黒い銅像、こちらがもう1頭の名馬、キングジョージ6世チェイスを4連覇・5勝したことで知られる、Kauto Starの銅像です。繰り返しになりますが、本日組まれているG1は彼の名前の冠付きです。こちらももちろん日本語Wikipediaルナさんの記事、そして詳細な英語版Wikipediaがあり、なぜかオランダ語もあります。Ascotの記事をかいたときにも思ったことですが、日本人が競馬(Wikipedia)を好きすぎるのと、海外のWikipedia基準は一体どうなってるのよ。なお、このKauto Starが事故で亡くなったのが、約半年前、2015年6月29日です(JAIRS)。

Desert Orchid Kauto Star

 で、例によって競馬場内をぶらぶらします。
 レープロ記載の地図の通りですが、Kempton Parkにはスタンドは3つ。金持ゾーンであるClubhouse。中流階級ゾーンであるGrandstand。そして、Festival Enclosure。私はGrandstandのチケットを持っているので、Grandstandまで入ることができます。
 Festival Enclosureの前にCrossing Pointがあり、内馬場に入ることができます。内馬場は駐車場かヘリポートじゃないかと思うんですが、今ちょっとなにも見つかりません。

 んで。私は当然馬場を渡りに行きます。いやあ、こうやって馬場を通れるのは嬉しいですね。

Crossing Point こんな感じで渡ります。障害に接近している人がいるので、私も接近しました
(まわりがやってるなら自分もやるのが日本人なのです!)
あと、どうも私はRacing Postを手に持ってるんですが、これどこにやったんだろうか……
Hurdleコース SteeplechaseコースからGrandstand方向 ケンプトンの芝
ポリトラックコース ポリトラックコース越しの
Grandstand
ポリトラックコース 脇に止まる中継車
障害 様々な角度から 障害越しにSteeplechaseコース
障害をアップで 最後にコースに別れを告げる

 で、Festival Enclosureをぶらぶらします。こちらはGrandstandの入場料を払わなくても入れるゾーン(婉曲的な表現)ですね。入場料は不明(Kemptonのホームページ見ても、まだレストラン付きの入場券しか売り出されてなかった)。
 こちらはまだまだ祭りの前の静けさ、といった空気感です。

ブックメーカーもまだやってきてません スタンドは非常に簡素 Grandstand方向。
チケットチェックは1カ所です
Grandstand側から
チケットチェックを見る

 Grandstandゾーンに戻ってきました。
 パドックまわりには飲食の屋台が出ております。まあ、ここはイギリスなので特に真新しいものはないんですが。この国には日本のようなご当地グルメ屋台や、B級グルメグランプリ優勝!みたいな屋台はないんでしょうか。唯一、PIMMS売り場だけが特徴といえるかもしれませんが、まあ下戸な私には全く関係が無いのでした。
 ここのパドックの特徴としては、ビジョンがあることです。ビジョンがついているパドックはイギリスでは珍しい気がします。

あらためて、パドック 屋台 WinningPostBar イギリスと言ったら、これ
Pimmsです
日本でもおなじみ、
クリスピークリームドーナツ
バーガーとBeef Roll売り場。これはむちゃくちゃ美味しそうですね。値段は見ないことにしましょう ATMに並ぶ皆様

 Grandstandの2階より上はPremier Suiteということで、中の上の階級の皆様だけが入れるスペースとなっております。私は中の下ですので、おとなしく1階に留まります。
 Grandstand1階の中は大混雑です。寒いから中に人が集まっているのと、もともとスタンド自体はそんなに広くないのも大きいですね。私の背が周囲に比べて高くないのもあって、息苦しいのでとっとと外に出ます。この日はこのあと外に居続けることにします。

Grandstand Premier Suiteへのチケットチェック スタンド内

 Grandstand裏手には帽子屋さんがいます。いかにもイギリス競馬、という感じですね。


 そして、Clubhouseへと向かいます。こちらはKauto Star Barまでは中流階級も立入可能です。
 また、Clubhouseの裏手には本屋がオープン。さらに、この日のスポンサーであるWilliam Hillの手帳ももらえました。William Hillは、日本ではブックメーカーの代名詞的な扱いを受けているように思うのですが(自分がそう思ってただけなことは否定できない)、きちんとスポンサーをやっているのを見るのはこの日が初めてだったように思います。偉大なるスポンサー様は2016年の手帳を無料配布しておりました。中を見ると、日本のレースはJapan Cupだけはしっかり掲載されていました。

Clubhouseへ Grandstand裏手の店 Kauto Star Barへと向かいます 馬場側へはバッヂが必要 Kauto Star Bar
バー内部 Kauto Starの写真が飾られております
検量所の様子を覗けます 本屋 貰った手帳 JapanCup(Tokyo)
府中でなく、東京です
大井のレースを載せるなら
どう表記するのだろう
賭けすぎに注意

 また、障害がおもむろに展示されておりました。てっきりハードルだけかと思ったら、そうじゃなかった。もうちょっと解説を置くとかなにかやり方があるように思うのだけれど、このあたりもイギリスクオリティと言うべきか。


 ここKempton Parkのもう1つの特徴として、Pre Parade Ringが遠いことがあります。無理に例えるならば、Ascotに近いものがあります。

パドック方向 The Nigel Clark Owners & Trainers Suite Pre Parade Ring方向 Grandstand Pre Parade Ringに接近
Clubhouse Stand 装鞍所側からPre Parade Ringを見る
Clubhouse Stand 人が増えてきました 簡単な桟敷があります 桟敷の上からPre Parade Ringを眺める

 Pre Parade Ringに馬が入ってきました。いよいよレースです!!


Boxing in Kemptonその2Kemptonその3



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