雨の草競馬

 日本各地で行われている草競馬。Wikipediaの草競馬の項目を見る限り,草競馬が盛んに行われているのは長野地方と東海地方です。
 なかでも,多度は年4回と,非常に草競馬が盛んな様子。これは行ってみないわけにはいきません。

 というわけで,例によって天気予報も何も見ずに夜行バスで名古屋に向かい,桑名経由で多度草競馬であります。
 桑名のことはは別の機会に書くとして,養老鉄道に乗って下野代へ。

 この手のローカル線というと,平戸や貴志,福井などの経験から,それなりに特色ある電車になっているのが通例です。てなわけでそこそこ期待しておりましたところ,養老鉄道グッズは販売されているようですが,あとは自転車対応のサイクルトレインであるというくらい。もちろん,自転車対応しているだけでも十分なんですが,そこまでやるからには「養老鉄道に乗っていざ大垣競輪場!」くらいのことはやってほしいものです。あるいは,大垣競輪場が一般開放される日などであればそういうイベントがあるのかな。

 とまあ,そういうぐだぐだはさておき,下野代に到着です。
 下野代から多度草競馬が行われるアイリスパークみぞのまでは,桑名市のページによると「徒歩33分」。ほかにアクセス情報が書かれておりません。
 串木野浜競馬佐久草競馬もそれなりに駅から距離がありましたが,いずれも交通手段が用意されておりました(佐久は望月バスターミナルを挟むけど)。まして,ここは年4回も草競馬が開かれる草競馬のメッカ。当然何かあるだろう,ホームページに書かれていなくても,行けばバスなりタクシーなりがいるだろう,と,期待して電車から降り立ったのでありました。

 ……が。電車から降りたのはNP一人。当然無人駅。タクシーもバスもいません。タクシー番号すら貼られていません。
 あれ。これはもしかしたらかなりやばい場所に来てしまったのではないだろうか……。やはりレンタカーを使うべきだったか……。

しものしろ 破壊行為が起きますと
当分の間修理を「致しません」
という,強い決意表明

一応風雨をしのげる
密閉式待合室があったので,
半家なんかよりはいいな
整理券
出てこなかったけど
多度で説明したら
大丈夫でした
電車運賃は正しく! 帰りの電車が来た様子

 とりあえず,電車から見えた徳蓮寺へ。無人駅脇にあるお寺なのではありますが,由緒正しきお寺のようで,しっかりとした説明書がありました。桑名市のホームページでも大きく扱われております。そして目を引く「日本三虚空蔵之一体」の文字。虚空蔵がなんなのかさっぱり分かっていないNPではありますが,「日本三虚空蔵のうちの1つがこんな田舎寺に!」となると嫌でも興奮してしまいます。が,いろいろネットを見る限り,「三虚空蔵」を名乗っているお寺は3つ以上あるらしく,眉につばをべたべたつけた方が良さそうな様子であります。
 それはさておき,びっくりしたのは,NPが着いた際に,本堂の中に人がいたこと。誰もいなかったら興味本位で「三虚空蔵の一体」とやらを見てやろうと思っていたのですが(秘仏で見られないかもしれんけど),さすがにまじめにお経を上げている方の邪魔をするわけにもいかないので,そのままお堂の外でお参りして帰ってしまいました。
 それにしても,雨さえ降っていなかったらもうちょっとゆっくりと境内を見てみたかったな。

徳蓮寺の解説
作成が桑名市教育委員会になってるので,
多度町の桑名市編入時に作ったのかも
階段
雨の中ここをのぼる
決意をするのに
10秒程度かかりました
ハートがついている灯籠 読み下し 読めない解説文
本堂 地蔵,不動,観音…でいいのかな


 さて,お寺参りを終えて,雨の中アイリスパークみぞのを目指します。どうも,1日数本バスがあるようですが,時間は合わず。
 「講」という言葉が見られます。東京にいると見ない言葉ですね。意味はよく分かってません。三重県というと,地域の神社は明治時代に大幅に減らされたと認識してますので,仏教を中心に地域のまとまりがあるんでしょうか。多分全く関係ないんだろうな。こういう宗教史を30秒で勉強できる場所があれば誰か教えてください。
 それはさておき,とにかく歩いてアイリスパークへ。車はそこそこ通っておりますが,歩いている馬鹿はNPだけ。歩道は狭く,人が歩くことは全く想定されておりません。いやですね,途中までは自信満々にアイリスパークみぞのに向かっていたのですが,不安になって携帯で再度日付が間違ってないか確認してしまいましたよ。いやはや。

 さて,この多度。実はこのアイリスパークのあたりに一大工業団地が形成されており,工業団地が近づくと唐突に歩道が整備されて道が広くなります。なるほど,そういう場所にあるのか。
 ところで,「アイリスパークみぞの」という名前を見てまず思ったのが,「アイリス」ってよく聞くけどなんだろう,ということでした。まあ,みぞのってのはどうせ地名でしょう。
 で,鋭意調査したところ,「アイリス」とは,多度町の町の花であったアヤメのことであると分かりました。なるほどね。おそらく,多度町が威信をかけて作ったスポーツ施設なんだろうな。
 実際に現地を歩くまでまさかこんな山奥に野球場があるなんて思ってなかったけれど,多度町に1つ野球場を!という動きがあっても不思議じゃないよな。

 てなわけで,野球場が見えたらゴールはもうすぐ。ここに至っても競馬をやっているような音が聞こえてこないのが不安で不安でたまりませんが,とにかく到達できれば分かること。


バス停 お地蔵様 こんな道を歩く アイリスパーク球場


 で,見えてきました!競馬場。いや,本当に競馬場でした。びっくりですよ,びっくり。競馬場です。これ,競馬以外に使い道ないでしょ。ほんまもんの競馬場です。砂浜使ったり野球場使ったりする串木野や佐久とは違う,本物の競馬場です。それが,こんな多度の山奥にあるんです。すごい。びっくり。なんだこれ。一体誰がどうやって予算通したんだ。土地の所有者出てこい。いやほんと,これ,すごいっす。
 実は,3〜4コーナー付近からこの馬場を見た時点では馬の気配が皆無で,ここに至っても「もしかしたら今日じゃないのでは」という疑念をぬぐい去れないでいたのでした。
 が,しばらくすると遠くから司会者氏の声が聞こえてきたり,見物者がちらほらいたりしたので,自信を持って競馬が行われることを確認できたのでした。
 ちなみに,馬がいなかったのはちょうどお昼休みだったからでした。ある意味,いいタイミングで競馬場に着いたと言えますね。

3〜4コーナー中間地点からの風景

 いやぁ,こんな立派な馬場で行われるのだから,さぞかし凄いことになっているのだろう,なんせ年4回も行われる草競馬のメッカです。串木野や佐久以上のものを期待します。

 で,結果として,ある意味串木野や佐久以上のものを見られました。が,正直,ちょっと拍子抜けした部分もありました。
 それは,基本的に多度の草競馬は軽種による競走がメイン(但し,中間種が混じっていてもNPには見分ける能力がない)であり,ポニーレースや輓馬農耕馬によるレースがないこと。そして,レース数が少ないこと。いや,だって,年4回,こんな立派な馬場でやるんだからもっといろんな馬が出てきても良さそうじゃないですか。これ,別に多度が悪いわけでも何でもなく,例によって大してした調べもせずに一方的に期待値を高めて一方的に裏切られたNPが悪いんです。

 そしてもう1つ。串木野も佐久も,町を挙げての大イベントでした。当然,店がじゃんじゃん出て,お祭り状態でした。
 が。ここには出店がありません。もしかしたら雨のせいかもしれません。でも,駅にも特に案内が出てないことを考えると,どうなんだろうか……。いずれにしても,お店はありませんでした。馬主さんや地元の方々は,思い思いにテントを出してバーベキューや鍋を楽しまれております。これは佐久と一緒。そのため,方々からいいにおいの煙がただよってきます。おなかが減ります。しかし,出店がない……。拷問だ……。実は,近くに農産物の直販所があり,そっちに行ったら多分食事にありつけたんじゃないかと思いますが,それを知ったのは帰宅後でありました。

 まあ,レース数が少ないのは仕方がない。どうも,午前中に6レース,その着順に応じて午後に4レース組まれているようです。この午前午後スタイルは串木野・佐久と一緒ですね。これは全国的にそうなのかな。

 コースはオーバルコース。ぱっと見,競輪の500バンクに近いかな,と思いながら見ておりましたが,調べて見たところ,1周600mのようです。
 レースの観戦ポイントは主に3カ所。ホームストレートに馬場に降りる広めの階段があり,ここが基本的な観戦スポット。その他,1コーナーと4コーナー部分にも,下に降りる階段があり,コーナーで迫力ある写真を撮影する方がおられました。ネットで検索すると,コーナーで撮ったと思われる写真が多く見られますね。あと,おそらく向正面の直線にも同様に下に降りる階段があり,そこでも観戦できるのだと思います(絵が描いてあるところね。よく装飾のための予算が下りたな)。

草競馬大会たど 壁には馬の絵 ありがちな怪しいオブジェ ゴール地点から左,前,右を見る 県営農地開発事業
4コーナーからの景色 トイレはそこそこ綺麗 使用には許可がいります 午後の出馬表 道路を挟んで反対側に
馬が待機しております

 さて,どうも主催者も雨のため早めに終わらせたいらしく,午後1時前に午後の第1レーススタートであります。
 午後のレースは,平頭,小飛切,中飛切,大飛切と名付けられております。なんとなく相撲チックな名前ですね。「飛切」は「とびきり」と読みます。ヒキリではありません。実は,これを見て「あれ,カネヒキリってもしかしてこれが由来か」と一瞬思ってしまったのですが,カネヒキリはハワイ後で雷の精の意味らしく,全く関係がありませんでした。ちなみに,午後が5レース制の場合,5レースめは「好」となるようです。

 レース自体は,他と同様,きわめてゆる〜い雰囲気で行われます。
 スタートがファンファーレでなく太鼓なのが特徴かな。歴史ある草競馬大会だけに,JRAに汚染されておりません。
 周回数は平頭・小飛切が3周,中・大が4周でした。到達時には「2周」という看板(競輪にも汚染されてないので白地に黒文字)が出ており,平頭レース前に騎手に対して「3周だぞ,3周」と周回数の注意を促す声援が飛んでいたので,おそらく午前中は2周で行われていたのではないかと思います。2周(1200m)と4周(2400m)とでは大きな違いですから,ここで優勝しようと思ったらスプリント能力とスタミナの両方が要求されるわけです。こりゃ大変。
 スタートは佐久同様,とりあえずスタートラインの後ろに全馬そろってあとはなんとなく,であります。ですから,助走をつけてスタートできる馬と,ゼロスタートの馬と,スタートラインから後ろからのスタートになってしまう馬と,いろいろ出ます。これはまさに騎手の腕の見せ所であります。

道路を渡って馬場入り スタートの線は足で引く

 さて,こうしてレースが始まります。
 軽種馬をしっかりと乗りこなすのは難しいと思いますが,非常に迫力あるレース。これはレベルが高い。あっという間の3周であります。

 そして,何より印象に残った2レース小飛切。先行していたイツカオレダッテを最後リュウコウが番手から抜きにかかるわけですが,抜かせまいとするイツカオレダッテが最後4コーナーで思いっきり外に馬を振りました。それでさらに外に振られたリュウコウが,本当に大外から最後交わして優勝。馬場が狭いので,すごい迫力です。まさか平成の世の中に多度でシンザンvsミハルカスを彷彿とさせる名勝負が見られるとは。これ,一瞬落馬事故になるんじゃないかと思いました。ほんとまさしくハイレベルの勝負です。
 そして,最後の差切りを喜んでおられた馬主さん(あるいは騎手の親戚か)の姿が非常に印象的でした。これぞ草競馬ですね。

 で,3レースは4コーナーから見てみました。コーナーを走る馬の姿はまた違う迫力があります。

返し馬 1レース 優勝馬表彰
台から賞品が渡される 2R。スタート前 向正面 3コーナー 4コーナー 1週目直線
平成の名勝負! 表彰 遅れても頑張る コーナーの姿 直線へ
向正面 コーナーを走る
それにしてもカメラの設定に失敗してるな
蜘蛛がいたので撮ってみた

 最終レース,大飛切では,周囲から「栗東の馬」「栗東から来た」と大評判になっている馬がおりました。その名もミスターサイゴン。多度競馬には初出走であります。タップダンスシチー産駒であります。
 他方,トッテモヨイコが大王者として迎え撃つ構図でありました。トッテモヨイコで検索したところ,JRA時代はミッキーワンという名前で走っていたようです。ラムタラ産駒がこんなところで天下を取っていたとは。
 いやあ,初めて現場に行って,適当に周囲の会話を聞いているだけでもわくわくしてきますね。これ,継続的に見てる人から見たらたまらんでしょうな。
 レースは,ハナを取ったミスターサイゴンがそのまま押し切って逃げ切り圧勝。他方,トッテモヨイコは伸びを欠く結果となりました。「栗東」の看板を背負って走り,見事結果を残した関係者方々,お疲れ様でした!

輪乗り 各馬ホームストレートを通過 ミスターサイゴン ウイニングランを待つ観衆 表彰式

 それにしても,こういう草競馬だと賞金もたかがしれているでしょうし(多分出走料が減資だよね),どう考えても黒字にならんよなあ(乗馬クラブとかの収入を別とすると)。
 馬主っていうのは基本的にお金持ちがやる贅沢な仕事だと思ってますが(オーナーブリーダーだとちゃんと黒字にしないといかんけど),こういう草競馬こそが,むしろイギリス的な「金持ち間の競争」に近いんじゃないでしょうか。その意味で,馬を持って草競馬で走らせるというのは,人間として最大級の贅沢なんではないかと思ったのでありました。いつかはこういうところで馬を走らせたいですな。

桑名の諸々その2多度大社へ

旅行記旅打ち