この年になって清水一行さんの本を読むのは初めてかもしれない。
経済小説というと、城山三郎さんと高杉良さんは高校時代に濫読したが、清水さんには手を出さなかった。無意識のうちに、ノベルズ判の本が安っぽく見えていた(西村京太郎氏の量産作の影響)のかもしれない。
清水さんもモデルのある作品の多い作家さんのようだけれども、本作にはおそらくモデルはない。繊維商社から独立してノミ屋として勝負に出た主人公のお話。ノミ屋本なのだけれど、どちらかというと男女の情愛作品の感が強い。清水さんの本はこれが初めてなので、清水さんの作品全般こんな感じなのか、本作がそういう作品なのかは分からない。
架空のノミ屋のお話ではある反面、登場する馬やレースは実名が多い。
イナボレス、ツキサムホマレ、そしてイシノヒカルタイテエムの菊花賞と、知っている名前が出てくると嬉しくなってしまう。当時はまだ読売カップがアラブダービーとしておこなわれており、騎手では星野忍騎手から千田能照騎手への乗り替わりが勝負駆けという空気感であった。
ツキサムホマレのながつき賞の3頭立ての印象など、当時の中央競馬の空気感も出ていて楽しい。
小説としては、序盤のノミ屋殺しあたりに無理を感じるし、最後はまあこうするしかなかったんだろうな、という感じで何回も読みたくなるレベルではなかったけれど、当時を知らない人間が読んで楽しい本ではあった。

匿名商社 (角川文庫 緑 463-12)
法律で禁じられた私設馬券屋(のみ屋)を、もし商社が企業化したら--。課長を突き飛ばして辞表を出した日之出商事社員猪木南男は、新会社の社長となる。仕事はのみ屋!(厚田昌範)

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