競馬において「怪物」というと、タケシバオーや芦毛の怪物オグリキャップ、シャドーロールの怪物ナリタブライアンなど、常人離れした能力を持った馬に与えられた称号となる。
他方で、人間はというと、福永洋一は天才だし岡部も柴田政人も、アンカツも的場文男も別に「怪人」とは呼ばれない。やはり「怪人」には、字の通り「怪しい人」というアンダーグラウンドな雰囲気が出てしまうからだろうなあ。
この本では、吉富隆安(場立ち予想家)、タカモト式、田中健二郎(ホームレスギャンブラー)、ターザン山本、柏木久太郎(トータライザー)、失踪した男たち(宮城昌康、金丸銀三など)、森田英利(馬券コレクター)、上森子鉄(総会屋・馬主)、畠山直毅(ツインターボ)、白井新平(ケイシュウなどを発刊したアナーキスト)、田原成貴(騎手調教師)という、競馬界の怪人を取り上げた本。実際にインタビューしている人もいれば、白井氏などは既に亡くなっているので中田氏が伝記的に書いている。基本的には「書斎の競馬」の連載で、タカモト式の1章と田原の章が書き下ろし。タカモト式について章を分けて書き足したのは何か思い入れがあったのだろうか。田原の章は蛇足っぽかったかなあ(清水厩務員との話を書きたかったのかな?)。
個人的にはアナーキストの肩書きに突っ込みを入れながら軽い筆致で書かれた白井新平氏の章がよかったのだが、別冊宝島世代からはなじみ深い畠山直毅氏がこんなに酷いことになっていた(まさかツインターボの斎藤牧場を出禁になっていたとは…)のを知れたのもよかった。この2人の章は、中田さんの文章もノッている気がする。
また、吉富さんの「マル地ではない競走馬がどこにいるんだ?……美浦に住んでる馬のどこが”中央”なんだ?イナリワンはな、東京のど真ん中の品川区、それもオシャレなベイエリアの馬よ!」という表現(24頁)はいいな。
上森氏など、歴史の表舞台に出てこない怪人たちを取り上げた本として唯一無二であり、書籍化されたのは非常に意義深いと思う。
なお、参考文献として出てくる稲葉八州士氏の本は「競馬の源流」でなく「競馬の底流」が正しい。
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